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5人のスペシャリストからのメッセージ

~乳がん患者さんが幸せになるレシピ【座談会】~

「何を食べてもおいしくない」「体調のせいで調理がつらい」など、乳がん治療中・治療後の食事に関する悩みは多くの方が経験します。今回は、医療現場で毎日患者さんの声を聞いていらっしゃる医師、薬剤師の先生方と、ご自身も乳がん経験のある管理栄養士の先生の5人の専門家を迎え、乳がんに罹った方がご家族とともにおいしく食事をとれる工夫や調理法などについてお教えいただきました。

先生方のプロフィール

医師

渡辺 亨 先生

浜松オンコロジーセンター
院長

国立がん研究センター中央病院で長年腫瘍内科学などを研究。現在も、乳腺専門医、腫瘍内科の第一人者として、長きにわたり、乳がん患者さんの診療にあたる。

医師

坂東 裕子 先生

筑波大学医学医療系
乳腺内分泌外科学分野
准教授

ドイツ生科学研究所(GBF)、都立駒込病院などを経て、乳腺外科医として日々研究や乳がん患者さんの診療にあたる。

医師

竹原 めぐみ 先生

医療法人DIC
宇都宮セントラルクリニック
乳腺外科

北海道がんセンター、自治医科大学などを経て、乳腺外科医として日々研究や乳がん患者さんの診療にあたる。

薬剤師

沢井 紀子 先生

浜松オンコロジーセンター

病院薬剤師として抗がん剤治療中の患者さんに数多く接する中で、抗がん剤による味覚障害についての研究も行う。

管理栄養士・
料理研究家

村田 裕子 先生

「毎日の元気は食生活から」を信条とし、作りやすく、健康とおいしさを兼ね合わせたレシピ開発・栄養指導に携わる。

乳がん患者さんが幸せになるレシピとは

渡辺先生(以下渡辺):私自身、長く診療に携わってきて思うのは、乳がんに罹った患者さんにとって、“食“というのは大きな関心事であるということです。好発年齢や女性ということもあり、ご家庭で家族の食事を担っている方も多い。
そこで今回は、「乳がん患者さんが幸せになるレシピ」をテーマに、それぞれのご専門分野で活躍されているだけでなく、実際に日々ご家族のために食事を作られている先生方にお集まりいただきました。
患者さんが抱える食の悩みに対するアイデアやアドバイスを、忌憚なくお伺いできればと思います。

今回の座談会でいただいた意見をもとに、今後乳がんの患者さんにとってスタンダードになるようなレシピ、すなわち食の悩みを解消しつつ、栄養バランスに優れ、なおかつご家族と一緒に食事を楽しめるようなおいしいレシピを継続して提案していきたいと思います。

ー味覚や嗅覚の変化:食べてもおいしくない、食べられない、味付けに困るー

食べられるものを探して、調理には味付け済み調味料を

渡辺:抗がん剤治療や放射線療法を受ける方の中には、副作用によって味覚異常や嗅覚異常に悩まされる方がいらっしゃいます。料理というのはおいしそうな見た目であることが食欲に大きな影響を及ぼすと思いますが、村田先生の手がけられたレシピを拝見すると、どれも大変おいしそうです。先生ご自身も乳がんを体験されたそうですが、実際にはどのような悩みを経験されましたか。

村田先生(以下村田):ありがとうございます。私は11年前に乳房温存手術を行い、その後、放射線療法とホルモン療法を受けました。その際には、放射線照射後にホットフラッシュや倦怠感、のどの渇きを経験し、異常に生野菜ばかり食べたくなったり、逆に肉ばかり食べたくなることがありました。

坂東先生(以下坂東):特に抗がん剤治療を受けていらっしゃる患者さんからは、塩味がわからない、苦みや金属のような味がする、甘味だけがわかるといった味覚の変化を感じる声が多いですね。 また、口内炎ができると、酸味があるものや固いもの、温度刺激で食べづらいことが多いようです。

竹原先生(以下竹原):患者さんの中には、吐き気があるのに食後の薬を飲むために無理やり食べて吐いてしまう方もいます。「食後」と書いてあっても無理に食事をする必要のないお薬については、その旨を説明しています。
また、人によって副作用が違うように、どんなものが食べられるのかには個人差があるので、「リンゴは大丈夫」「じゃがいもなら食べられた」など、ご自分の食べられるものを探してもらいます。

沢井先生(以下沢井):以前、市民講座でお話しした内容なのですが、抗がん剤の治療を受けた方の約60%が何らかの味覚障害を経験するという報告があります1)
口の中では、無数に存在する味覚細胞に食物の味成分と唾液が混ざったものが届き、味を感じていますが、薬剤によって味覚障害の原因は違います(図1)。
唾液分泌が低下すると、味成分を味覚細胞に運ぶ力が低下するので、患者さんには、酸味のあるものを食べたり、よく噛んだりすることで唾液の分泌を促したり、ミネラルウォーターなどで口の中を潤すとよいとご説明しています。また、舌苔を歯ブラシなどでやさしく除去することもお勧めしています。亜鉛の補給については、抗がん剤で亜鉛が不足した場合は、味覚障害が改善する可能性も考えられます。

竹原:味覚が変わってしまい、調理の味付けが分からないという方は、レシピ通りに計量して作ることも対処法ですね。

村田:既に味付けしてある調味料を使うのもよいと思います。麺つゆやポン酢しょうゆ、塩麹などは簡単に作れますし、自分で作ったものを食べることが、満足感や安心感にもつながります。 野菜とお肉を鉄板に並べて塩を振って焼くだけという、今流行りの“ぎゅうぎゅう焼き”なども、各自お好みで好きなタレを付けて食べれば、ご家族みんなで楽しめますね。

沢井:薬剤によって差がありますが、味覚障害は、投与後約3日~1週間くらいで出てくる場合が多く、治療後3~4週間で戻ることが多いので記録を付けておき、自分の周期を知っておくことも一つの対処法かなと思います。

1) Allan J. Hovan et al.: Support Care Cancer 2010; 18:1081–1087

ー腕のしびれや痛み、倦怠感:調理がしにくい、料理する気になれないー

切らなくてよい食材を使って、無理せず手間なく調理

渡辺:乳房切除術後は、手術側の腕にしびれや痛みが出たり、身体がだるくなるなど、なかなか料理ができないという方もいらっしゃいます。

村田:私も、術後は包丁で切ったりフライパンで炒めたりする際に、腕に響いたり、しびれて上手くできなかった経験があります。
そういう場合は、切らなくてもよい食材を使うと便利です。例えば、もやしやキャベツ、きのこ類などはそのまま、またはちぎって使えますし、菜葉類はキッチンばさみで切れます。また、根菜類はピーラーで薄切りにすることができます。肉だったら、ひき肉やこま肉、かたまり肉などを使えば切る必要がありません。他にも、きゅうりなどの柔らかい素材は麺棒で叩くという方法もあります。

竹原:それは、味もよく染みておいしく仕上がりそうですね。切らないと聞けば、「カット野菜を使う」とイメージしがちですが、もともと切らなくてよい食材を使うと、いろいろ幅が広がりますね。

沢井:患者さんの中には、抗がん剤の副作用で爪に変形や割れなどの障害が出て、細かい作業をする場合に大変な思いをする方もいるので、そういった方にも大変良い方法だと思います。

渡辺:患者さんにとって、包丁を使わず手間がかからないというのは、大変重要ですね。できれば、療養中、療養直後は無理せずご主人やご家族に料理を作ってもらったり、手伝ってもらえるといいですね。

村田:乳がんの患者さんが他のがんの患者さんと違うのは、多くの場合、病気になったご本人が食事を作らなければならないということです。術後の痛みやしびれだけでなく、気分が沈んだり落ち込んでしまうことも多いと思うので、旦那様やご家族に手伝ってもらえたら、ご本人の負担も大分軽くなるのではないかと思います。私自身、術後は抑うつ的になって料理を作りたくないこともありました。

坂東:患者さんの中には、身体の機能低下に加え、金銭的負担や将来に対する不安感などで調理どころではなくなってしまう方も多いですからね。そんな時に家族やパートナーの支えがあると心強いですね。
食生活に関する悩みというのは、それ自体が単体で存在するものではなく、家族構成や生活スタイル、地域などにより多様性があり、生活の中でうまくバランスをとっていかなければならない重要な問題だと思います。

ー食べるものに敏感になる:健康にいい、身体にいいものを食べたいー

旬の食材などを取り入れたバランスのよい食事を

渡辺:世間には、がん患者の食事に関してさまざまな情報が氾濫し、我々は患者さんから食べるものについてよく質問を受けます。中には科学的根拠として疑問を抱くような方法も多い。これに関して先生方はどう思われますか。

竹原:患者さんからよく、乳製品や肉、小麦、大豆製品は食べてはいけないのですか?と聞かれます。特に食べてはいけないものはないとお伝えするのですが、調べてみると、「~は食べてはいけない」という情報がたくさん流れているのです。また逆に特定の食材ががんに効く、というものもあり、それだけを無理して大量に摂取している方もけっこうな割合でいらっしゃいます。
がんを患うというのは大変切実な問題ですので、これらインパクトのある情報を信じてしまいがちなのですが、科学的根拠のあるものはあまりないように見受けられます。

村田:私にも経験があるので気持ちがわかるのですが、がんに罹ってから食べるものに敏感になり、術後1~2年が一番デリケートになる時期かと思います。胃がん、大腸がんなどの患者さんは、管理栄養士による食事指導を受けますが、乳がんの患者さんにはなかなかその機会がありません。どんなものを食べたらいいのか、どんな家庭料理を作ったらいいのか、そんな不安もたくさんあると思います。

坂東:食というのは、治療とは違い患者さんご本人が自らアプローチできる方法ですので、関心が高いのは当然のことなのかもしれませんね。ただ、何かに偏るのではなく、ベースは均整のとれた食事、プラスαで栄養価の高いものを摂取していくというのがよいですね。

村田:私自身も管理栄養士という仕事柄、「がんにいい食べ物」をよく聞かれるのですが、禁止事項の多い食事療法は患者さんの不安感や恐怖心を煽るだけで長続きしにくく、栄養バランスのとれた食事をとることが大切だと思っています。自分の子どもにも言うのですが、基本は1日の中で5色(白、黄、緑、赤、茶/黒)のものを食べなさいということを教えています。またなるべく添加物を避け、できる範囲で自分で作ったものを食べることが安心感にもつながります。
その上で、身体の免疫力をあげる食材や、栄養価が高くなる旬の食材などをお勧めしています。

沢井:主婦の立場からすると、旬のものは安価に手に入りやすいのもいいですね。やはり高価なものや身近で手に入りにくい食材を使う料理は長続きしないので、日常的に取り入れられるものでいかに栄養バランスよくおいしくできるかというのが、知りたいところかなと思います。

渡辺:乳がん患者さんの食事に関しては、基本的に制限はなく、食べてはいけないというものはありません。ちまたにはさまざまな情報があふれていますが、本来は何も難しいことはなく、栄養バランスのとれた食事をご家族とともにおいしく食べることが、身体にも心にもいいということですね。
本日話し合った意見を踏まえ、今後我々から「乳がん患者さんが幸せになるレシピ」をみなさんに提案していきたいと思います。本日はお忙しい中、先生方どうもありがとうございました。

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